梅毒検査と感染症のおはなし【TPHA検査、RPR検査】

梅毒検査と感染症のおはなし【TPHA検査、RPR検査】

「医師が江戸時代にタイムスリップするドラマ」では、江戸時代のさまざまな病気について描写されていました。

とくに「梅毒」はストーリーの主題に置かれる位置づけで、古くから梅毒の恐ろしさは知られていたことが伺えます。

現代では梅毒に対して大病という認識はあまりないかもしれません。

しかしそれは治療法や予防法の確立によるものであって、人体が強くなったわけでも、病原菌が絶滅したわけでもありません。

ここでは梅毒検査(TPHA検査、RPR検査)を知るために、人間と細菌の生存競争から性行為感染症(STD)までいろいろとお話を進めていきましょう。

1.卵が先か鶏が先か

一般的に自然界の動物は、子孫を残す目的で繁殖行動を行います。

ところが高度な知能と高度な社会性をともに獲得した動物では、例外的に繁殖の目的を持たない繁殖行動をするといいます。

つまり群れでのトラブルを避け、安定した群れでの生活を目的として繁殖行動を利用する動物がいるのです。

ヒトのほかにはボノボという類人猿でもみられますが、自然界ではあまり一般的ではありません。

もしかすると繁殖以上に、社会秩序の維持は動物にとって重要なのかもしれません。

さて、実際に地球上でヒトがこれほどの勢力を維持していることを考えてみると……

・社会性が高いから種が有利

・種が有利だから社会性が高い

どちらなのでしょうか。

片方が正解かもしれませんし、両方とも正解なのかもしれません。

しかしその答えを知る者はいませんし、未来永劫答えはわからないのかもしれません。

自然の営みとは、まさに興味深いものですね。

2.それなりに好き

性行為を繁殖目的以外で行うということは、繁殖目的だけの動物と比べると性行為の回数が段違いに多いともいえます。

ところが私たちの目に見えないミクロの世界では、人間の生存競争とは比べものにならないほど熾烈な競争が繰り広げられています。

数十億年も前から延々と戦い続けているミクロの住人たちの中には、そのときどき強い生物に種を委ねる者もいるのです。

性行為によって感染が広がるタイプの感染症を「性行為感染症(STD)」といいます。

「梅毒」という病気はSTDの中でも代表的なもので、細長くてクルクルと螺旋状の「Treponema pallidum(TP)」という細菌が起こす病気です。

多くは粘膜の接触で感染をしていきますが、ひとつ疑問が生じます。

もしもヒトが繁殖目的だけで性行為をする動物ならば、TP(梅毒トレポネーマ)は本当に生き残ることができたのでしょうか。

ヒトの性行為が多いからTPは生存競争に勝ち残ったのか、もともとSTDとしてお邪魔していたヒトの性行為が増えたのか、性行為の多いヒトを見つけてSTDになったのか……。

考えれば考えるほどに興味が尽きません。

3.梅毒に気を付けよう

梅毒はペニシリンという抗生物質(抗菌薬)が画期的な治療法でした。

それまで不治の病とされてきた梅毒も、現在では致命的なまでに悪化する方は減っています。

しかし梅毒トレポネーマが弱体化したわけでも、人体が強固に進化したわけでもありません。

感染した無治療の方との性行為では3回に1回は感染してしまいますし、治療せずに放置すれば命に関わります。

それは江戸時代でも現代でも変わりません。

だからこそ梅毒の感染をいちはやく知り、治療につなげるための検査が重要となってくるのです。

現在では「TPHA検査」と「RPR検査」という二種類の検査を併用して梅毒の発見につなげていきます。

もちろん他の検査方法や、より具体的な検査方法もありますが、日本では比較的一般的な検査といえるでしょう。

4.TPHAとRPR

人体は細菌やウイルスなどに感染をすると、次回の感染に備えて「抗体」とよばれるものを作ります。

抗体は「抗原」、つまり細菌などを構成する一部分に反応して、相手を破壊する役割があります。

免疫の話をするとページが長くなってしまうので、ここでは割愛します。

また別の機会に楽しいお話ができるといいですね。

梅毒トレポネーマ(TP)に感染をすると、「TPに対する抗体」ができます。

また、「TPではない脂質に対する抗体」もできることがわかっています。

非トレポネーマ脂質とよぶこともありますが、この抗体の検査こそが「RPR」とよばれる検査です。

TPそのものに対する抗体の検査は「TPHA」、TPというアルファベットが入っているのでTPに対する抗体の検査です。

陰性なのに陽性が出てしまう生物学的偽陽性の問題や、現在の感染がよくわからない問題など、いろいろな短所もあります。

しかしTPHAとRPRを併用することで、お互いの短所を補いながら梅毒の発見につなげることができるのです。

梅毒検査と感染症のおはなし【TPHA検査、RPR検査】

まとめ

ご自身の身体だけではなく、大切なパートナーのこともしっかりと考えましょう。

性行為感染症は梅毒だけではなくさまざまな病気が存在します。

私たちが明るい笑顔で社会秩序を保つべく、繁殖目的以外の性行為を行う動物になったとしたら?

暗い顔でSTDに怯えるのではなく、正しい方法でSTDを予防しましょう。

もしも心当たりがあるならば医療機関を受診して、早期発見、早期治療の心がけ。

それこそが明るく健康的な生活を送るヒントにはならないでしょうか。

監修者からのコメント

内科医

梅毒は多くが性行為によって感染しますが、胎盤を経由して母から子に感染することもあります。そのため自分だけの問題では終わらない可能性を考え、しっかり治療をしたいものです。性行為感染症にかかる時は必ずしも1種類だけとは限りません。梅毒だけかと思ったらクラミジアやHIVも・・・という可能性だってあります。まずは感染しないように予防することが大切ですね。また、注意が必要なのは、梅毒には第1期から第4期までの病期があるのですが、第1期の症状が自然に消えてしまう時期があります。治ったからいいかと安心してしまうと無症状のまま進行してしまうので、放置しないようにしましょう。